図1:天の川の中に広がる暗黒星雲。
星の少ない、暗い領域が暗黒星雲である。
(画像:国立天文台広報普及室)
暗黒星雲のアトラス(地図帳)を作成する試みは、
半世紀以上も昔から行われてきました。 特に、米国のリンズ博士(Lynds、1962)が編集したアトラスは天空の広い範囲をカバーしており、
発表されてから40 年以上経った今日でも、暗黒星雲の基礎資料として利用されています。しかし、 リンズ博士のものも含め、
これまで作成された暗黒星雲のアトラスやカタログは、大雑把で精度の低いものでした。これは、ガラス板に感光材を塗布し、
望遠鏡で星空を撮影した写真乾板を基に、人間の目だけを頼りに星の少ない領域を見つけていたためです。
写真乾板に写っている星を正確に数え、その疎密を調べれば、暗黒星雲の詳細な分布や、ダ
ストの量を正確に測定することが出来ます。これは、 スターカウント法(星数計測)
と呼ばれる暗黒星雲の伝統的な研究方法です。しかし、写っている星が多すぎるため、
肉眼のみに頼りながら天空の広い範囲でスターカウントを行うことは、これまで事実上不可能でした。
このため、初期のカタログやアトラスには、肉眼で見つけた暗黒星雲の大雑把な位置(座標)と広がりだけが記録され、
暗黒星雲の基本的な物理量である減光量(注1)さえ測定されていませんでした。一方、ここ 十数年ほどの間に、性能の良い計算機が急速に普及しました。
1997年末頃、私たちは、過去から蓄積されてきた膨大な写真乾板に、計算機を使ってスターカウント法を適用すれば、
全天空を網羅する暗黒星雲の精密なアトラスを得ることができる、という発想を得ました。東京学芸大学 における暗黒星雲の全天アトラス計画のはじまりです。