暗黒星雲を観測する
暗黒星雲を観測する手段には、主に可視光を使う方法、赤外線を使う方法、電波を使う方法の3つがあります。
可視光では、古くからたくさんの観測が行われています。可視光では星を数えることによって、暗黒星雲による背景の星の減光の度合いを調べます。可視光で観測されたデータを用いて星数密度分布図を作ると、暗黒星雲を浮かび上がらせることができます。星数密度分布図とは、星夜写真から単位立体角あたりの星の数をカウントし、星の密度で天空を表現したものです。星の数の少ない暗黒星雲は星数密度分布図の低い領域として表わされます。これによって星の光が星間塵(ダスト)によってどれだけ減光を受けているかということや、暗黒星雲の大きさや距離、質量を知ることができます。
減光量と暗黒星雲
オリオン座付近の星の密度図(星数密度分布図)。
可視光のデータ(DSS)を用いて、オリオン座付近の星の数をカウントした図です。白いほど星が多く、黒いほど星が少なく分布していることを示します。星の数の少ない領域が暗黒星雲として浮かび上がります。
オリオン座付近の星の密度図(星数密度分布図)。
各暗黒星雲を形どったもの。
オリオン座付近の暗黒星雲の分布図(減光量マップ)。
上の星数密度分布図をもとに、暗黒星雲の分布を減光量という量で表した図です。オリオン座付近の暗黒星雲がどのような性質をもっているか、といった物理的な研究を行うことが出来ます。
赤外線は、私たちが見ることのできる光の波長よりも長い波長の光です。通常、赤外線は地球大気中の分子に吸収されるので限られた波長域でしか観測できませんでした。しかし1983年1月に打ち上げた赤外線天文衛星IRAS(Infrared Astronomy Satellite:アイラス)は暗黒星雲の中にたくさんの赤外線星を発見しました。これらの赤外線星は、「おうし座T型星(T-Tauri 型星)」や、生まれたばかりの星で暗黒星雲の特に密度の高い領域に埋もれている「原始星候補天体」と考えられています。赤外線の観測データを用いると、暗黒星雲内部の星の形成過程の情報を知ることができます。
オリオン座付近の星の密度図(星数密度分布図)。
波長1.25μmの赤外線で観測したデータから、オリオン座付近の星の数をカウントした図です。白いほど星が多く、黒いほど星が少なく分布していることを示します。可視光のデータを用いた上の図より、暗黒星雲のより濃密な部分を浮き上がらせることが出来ます。
オリオン座付近の暗黒星雲の分布図(Jバンドの減光量マップ)。
波長1.25μmの赤外線データから作成した上の図より、オリオン座付近の暗黒星雲のより濃密な部分について、減光量の大きさで表した図です。暗黒星雲の内分にある、星の母体である'分子雲コア'と呼ばれる部分が見えてきています。分子雲コアは、分子雲の中の特に密度の高い領域です。
電波では、暗黒星雲の中の分子が出す固有のスペクトル線を観測します。星間物質のうち、最も多い元素は水素です。しかし、水素分子(H2)は地上で容易に観測できる電波の波長域に放射がありません。H2の次に多く、しかも容易に観測できる分子は1970年に発見された一酸化炭素(CO)です。電波による一酸化炭素などの星間分子のスペクトル線の解析からは、暗黒星雲の温度と密度や雲の内部運動の大きさ、さらには原始星の降着ガス円盤の発見など、暗黒星雲の内部の情報を得る事ができます。