暗黒星雲全天探査計画の概要

3暗黒星雲の「伊能図」
以上の研究により、私たちは非常に精密な暗黒星雲のアトラスを完成させることができました。このアトラスは、全天空の暗黒星雲を6分(1度の10分の1の角度であり、満月の視直径の約5分の1です)という 高い解像度で、過去に例を見ないほど正確に描き出しています(図3)

図3:左はリンズ博士(米国)によって1962年に発表された暗黒星雲カタログの一部。
はくちょう座の暗黒星雲がスケッチされている。
右は我々のアトラス(図2の一部の拡大図)。
左右の図で、同じ暗黒星雲を黒の破線で囲った。
右図のコントアは、減光量で0.3等級から1等級毎。
(左図はLynds, B. T., 1962, Astrophysical Journal Supplement, vol.7, pp.1-52より転載。 )

江戸時代、幕府天文方の伊能忠敬は、55歳から71歳までの17年間をかけ、天体を用いて位置の補正を行うという当時としては画期的な方法により、それまで使われていた地図とは比べものならないほど正確な日本地図を作りました。いわゆる「伊能図」です。私たちも、半世紀以上も前から蓄積されてきた古い写真乾板を、6年以上の歳月をかけて解析し、精密な暗黒星雲のアトラスを作成しました。これは、暗黒星雲の伊能図とも言うべきもので、国内外の研究者の注目を集めています。伊能図は幕府によって海外への持ち出しが固く禁じられていましたが、私たちは、この暗黒星雲の アトラスを世界中の研究者が自由に利用できるよう、現在、インターネット上でデータを公開する準備を進めています 。すでに稼働しているすばる望遠鏡(可視光)や、打ち上げが確実となったASTRO-F(赤外線)、また、計画中のアン デス巨大望遠鏡(アルマ計画、電波)など、最新の観測機器による研究を遂行する際、研究計画立案の拠り所となる基礎的なデータベースになることが期待されています。

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