暗黒星雲全天探査計画の概要

2 新しい暗黒星雲アトラスの作成>
    私たちが研究を開始する数年前、米国の宇宙望遠鏡科学研究所(Space Telescope Science Institute)か ら、Digitized Sky Survey I(以後、DSS)と名付けられた光学写真のデータベースが公開されました。これは、パロマー山天文台(米国)及びア ングロ・オーストラリア天文台(豪州)の1.2mシュミット望遠鏡によって、1950年代から蓄積され続けた写真乾板を、高解像度スキャナーで 取り込みデジタル化したものです。DSSには1541枚の写真乾板が納められており、1枚の写真乾板は天空で約6°四方の領域をカバーしていま す。撮影時期や天空での場所によって画質に多少のバラつきはありますが、全天をくまなく網羅しています。
    DSSの入手、計算機の整備、解析用ソフトウェアの開発等の準備を1年間ほど行い、1998年末頃より、暗黒星雲の探査を本格的にスタートしました。スターカウント法を用いるため、デジタル化された写真乾板1枚毎に星を漏れなく検出し、等級や座標を記録してゆきます。DSSに納められ ているデータは膨大であり、また、損傷している古い写真乾板もありましたので、作業は困難を極めました。約7億個の星を数え終わり、天空での星の分布の疎密を調べ、暗黒星雲の全天アトラス(図2)が完成したのは、計画が本格化してから丸3年が過ぎた2002年1月のことでした。

図2:写真乾板のデータベース(DSS)に
スターカウント法を適用して作成した暗黒星雲の全天マップ。
写真乾板に写った約7億個の星の等級と座標を調べることで、
暗黒星雲に含まれるダスト(塵)の分布を描き出した。
図では、ダストの量に比例する
減光量の大きさで暗黒星雲を色付けしてある。
天の川(図の銀緯〜0°付近)に沿って、
暗黒星雲が広く分布していることが分かる。

    しかし、アトラスが完成したといっても、この段階では暗黒星雲のデータベースとしてはまだ不完全でした。日本地図に例えるなら、日本列島を等 高線だけで描いた図が出来たに過ぎません。日本列島には、険しい山や広大な平野など、様々な地形があります。実用的な地図帳にするためには、 山や平野に名前を付け、それぞれの高度や面積を測定し、索引を付けなければなりません。私たちは、得られたアトラスを基に、合計5289個の暗黒星雲を同定し、番号を付け、個々の座標、減光量、広がりを測定しました。この結果をカタログ付の暗黒星雲アトラスとしてまとめ、日本天文学会 発行の学術雑誌Publications of the Astronomical Society of Japan(通称PASJ)で発表することができたのは、さらに3年後の2005年2月 末のことでした。

次のページへ