暗黒星雲全天探査計画の概要

1暗黒星雲
     暗黒星雲は、宇宙空間に漂うガスとダスト(塵)が集まったもの です。暗黒星雲は低温(-260℃程度)で、周囲の宇宙空間に比べて非常に密度が高い(100倍〜100万倍)という特徴があります。 私たちが地球から暗黒星雲を見ると、 暗黒星雲の背後にある星の光が暗黒星雲内の濃密なダストによって遮られてしまう ため、暗黒星雲は天空で星の少ない、暗い領域として認識されます。図1は天の川の写真です。 写真の右下から左上に広がる天の川を眺めると、星の少ない暗い領域が所々にあることが分かります。これが暗黒星雲です。 暗黒星雲は、 太陽のような恒星や地球のような惑星が誕生る場所として、銀河系の中でも 特に重要な役割を果たしています

図1:天の川の中に広がる暗黒星雲。
星の少ない、暗い領域が暗黒星雲である。
(画像:国立天文台広報普及室)

    暗黒星雲のアトラス(地図帳)を作成する試みは、 半世紀以上も昔から行われてきました。 特に、米国のリンズ博士(Lynds、1962)が編集したアトラスは天空の広い範囲をカバーしており、 発表されてから40 年以上経った今日でも、暗黒星雲の基礎資料として利用されています。しかし、 リンズ博士のものも含め、 これまで作成された暗黒星雲のアトラスやカタログは、大雑把で精度の低いものでした。これは、ガラス板に感光材を塗布し、 望遠鏡で星空を撮影した写真乾板を基に、人間の目だけを頼りに星の少ない領域を見つけていたためです。
    写真乾板に写っている星を正確に数え、その疎密を調べれば、暗黒星雲の詳細な分布や、ダ ストの量を正確に測定することが出来ます。これは、
スターカウント法(星数計測) と呼ばれる暗黒星雲の伝統的な研究方法です。しかし、写っている星が多すぎるため、 肉眼のみに頼りながら天空の広い範囲でスターカウントを行うことは、これまで事実上不可能でした。 このため、初期のカタログやアトラスには、肉眼で見つけた暗黒星雲の大雑把な位置(座標)と広がりだけが記録され、 暗黒星雲の基本的な物理量である減光量(注1)さえ測定されていませんでした。一方、ここ 十数年ほどの間に、性能の良い計算機が急速に普及しました。 1997年末頃、私たちは、過去から蓄積されてきた膨大な写真乾板に、計算機を使ってスターカウント法を適用すれば、 全天空を網羅する暗黒星雲の精密なアトラスを得ることができる、という発想を得ました。東京学芸大学 における暗黒星雲の全天アトラス計画のはじまりです。


(注1)減光量:星の光が暗黒星雲によってどの程度減光されるかを示す基本的な物理量(単位は等級)。 例えば、もともと5等級の星が、暗黒星雲によって6等級に見えるとき、この暗黒星雲の減光量は1等級である。 減光量は、暗黒星雲に含まれるダストの量に比例する。

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